
世の中が全自動運転だの、空飛ぶバイクだのと騒いでいる2026年。 私たちは相変わらず、時速60キロでガタガタと震える小さな原付二種に跨り、山道で泥を浴びることに至上の喜びを感じている。
特に「CT125 ハンターカブ」。2020年の発売以来、予約待ちで数ヶ月を棒に振る男たちを量産してきたこの「遊びの天才」について、もはや説明は不要だろう。
今回紹介するのは、そんなハンターカブ・オーナーが枕元に置くべき聖書、『ホンダ CT125 ハンターカブ カスタム&メンテナンス』だ。
なぜ私たちは、この「不便そうな形」に惹かれるのか

この本は、車両の徹底解説から始まる。 コンセプトモデルがそのまま発売されたという奇跡。かつての「CT110」の亡霊を、現代の技術で無理やり蘇らせたホンダの執念。
なぜ、ただのカブに「アップマフラー」と「ごついキャリア」が付いただけで、私たちは「これでどこまでも行ける」と錯覚してしまうのか。その謎を解き明かすには、この1冊でまずは構造という名の「真実」を知る必要がある。
ベーシックメンテナンス:ホンダドリーム直伝という「免罪符」
「自分でオイル交換をして、エンジンを壊したらどうしよう……」 そんな、繊細な心臓を持つライダーのために、本書は安心のホンダドリーム店で取材を敢行している。
チェーンの清掃からブレーキの点検まで、写真付きで丁寧に解説されている。これで、日曜日の午後にガレージでオイルまみれになりながら、「俺は今、マシンと対話しているんだ」という酔狂な自己満足に浸るための準備は万端だ。
カスタムメイキング:武川とキタコ、2大巨頭が誘う「散財の迷宮」

ここが本書の最も「危険」なパートだ。 老舗メーカー、スペシャルパーツ武川とキタコのパーツ組み込み手順が、これでもかと詳細に載っている。
- 「もう少しパワーがあれば……」
- 「ここの見た目を少し変えれば……」 その小さな欲求が、気がつけば車両価格を優に超えるカスタム費用へと化けていく。この本は、あなたの財布を軽量化することに関しては、どのAIよりも効率的だ。
パーツカタログ:眺めるだけで「キャンプに行った気分」になれる魔法
国内外の人気パーツを網羅したカタログページは、もはや「実用書」ではない。「妄想のための装置」だ。 たとえ実際には近所のコンビニまでしか走らないとしても、このカタログを見ながら「次はどのサスペンションを入れようか」と考えている時間は、立派な冒険である。
結論:ハンターカブは「未完成」だからこそ愛おしい
この本が教えてくれるのは、ハンターカブというバイクは、買った瞬間が「完成」ではないということだ。
いじり、壊し(たまに)、直し、自分だけの1台に仕立て上げていく。その非効率で、金のかかる、しかし最高にクリエイティブな過程を楽しむための地図が、ここにある。
「ただの原付に、そこまで手間をかけるの?」 そんなAI的な正論を吐く隣人には、この本の1ページも見せてやる必要はない。
さあ、工具を持て。そして、この1冊を開け。 あなたのハンターカブが、もっと「不便で、もっと愛おしい相棒」に変わる瞬間が、そこから始まるのだから。

